大学での教育心理学分野の研究結果からも中学生になると勉強が難しくなって成績のことで悩む生徒さんが増えることがわかっています。
心理学の世界から見た成績の悩みを解消する効果的な方法、成績アップの近道は、一言でまとめると
② メタ認知を活用した勉強対策をして、
③ 自律的に学習に取り組めるようにする
ことだと言われています。
同一化調整、メタ認知、自律的に学習、と言われてもわかりにくい…と感じる方のほうが多いと思いますので、具体例と注意点を交えてできるだけわかりやすく丁寧に解説していきます。
そんな中学生の皆さんへのヒントもご紹介します。
詳しい説明は省いて、皆さんが知りたい!気になる!点だけに絞ってお伝えします。
「本当?」と心配になってしまう皆さんのために、最後に参考文献を掲載しましたので、ご参照頂ければ幸いです。
目次【タップでジャンプ】
中学生の成績アップ、近道はあった!
生徒さんと、努力が結果にきちんと結びついている生徒さんは、一体どこが違うんでしょう?
近年の教育心理学研究の進展で、その理由が徐々に明らかになってきています。
始めにポイントをまとめておきます。
努力が結果に結びついているのは、
●このモチベーションがあるおかげで、一段高いところから、
客観的に自分の取り組みを見る「メタ認知」を活用した勉強対策を続けられる
●自分から積極的に勉強にかかわっていこうとするスタイルで、勉強している
という生徒さん達です。
モチベーションの解説記事をご覧いただいた皆さんの中には、
と思われた方もいらっしゃると思います。
と、疑問に思われる皆さんも多いと思います。
そこでまず、成績アップにつながるモチベーションとそうでないモチベーションの違いと注意点からもう少し丁寧に見ていきたいと思います。
成績アップは、モチベーションのタイプで変わる?
別の記事で、モチベーションには6つのタイプがあることをご紹介しました。
[sitecard subtitle=関連記事 url=https://school-nobinobi.com/self-determination-theory/ target=self]そのうち成績アップにつながるのは「同一化的調整」のモチベーション。
なぜ「同一化的調整」は成績アップにつながるのでしょうか?
「同一化調整」モチベーションと、成績アップの関係
同一化的調整が強いタイプの生徒さんは、勉強することに価値を見出しています。
だから、勉強が難しくなったり、興味が持てない単元だったりしても、自分の目標や目的を達成するために勉強しようという努力の気持ち、粘り強さを持ち続けられるんです。
勉強の結果を重視しますから目標達成のために「メタ認知」を使った勉強対策も使います。
難しさを乗り越えるのに効果が高いと言われているメタ認知を使った勉強対策(メタ認知的方略)をうまく活用できるタイプなのです。
ある中学校の1、2年生の5教科の成績と同じ生徒さん達が2、3年生になった時の成績を比較して、成績がアップしたのはこの「同一化的調整」モチベーションの生徒さんたちだった、という研究結果もあります。
自律的な学習動機づけとメタ認知的方略が学業成績を予測するプロセス
-内発的な学習動機づけは学業成績を予測することができるのか?-
西村多久磨、河村茂雄、櫻井茂男(教育心理学研究,2011,59,77-87)
では、同一化的調整より高いモチベーションと低いモチベーションは何が違うのでしょうか。
注意点も併せてみていきます。
「内発的調整」モチベーションは、成績アップと関係ないの?
勉強内容の理解を重視して興味や面白さに気持ちが向く「内発的調整」。
このモチベーションタイプの生徒さんは、理解するのが難しい単元で頑張っても理解できない状態が長く続くと、興味や関心が薄れていってしまうんです。
そうなってしまうと、先ほど出てきたメタ認知を使った勉強対策もしなくなってしまう…
このタイプの生徒さんは、一時的にはメタ認知を使った勉強対策をしていても継続してくれるタイプとは言い切れないんです。
ですから、内発的調整のモチベーションで勉強している生徒さんを頑張っているからといってそのまま見守っているだけだと学校の成績は伸びないこともあります。
一番楽しんで、興味をもって自分から進んで勉強してくれているタイプだからこそ、「メタ認知を活用した勉強対策」をしてくれるように上手に導いてあげることが必要になってきます。
また、このタイプの生徒さんにご褒美などの外的な報酬をあげてしまうと内発的なモチベーションを下げてしまうこともわかっています。
(アンダーマイニング効果=抑制効果)
「取り入れ的調整」モチベーションでは、成績アップは期待できないの?
取り入れ的調整は、「同一化的調整」の1つ下のモチベーション。不安や羞恥心、義務感が強いので競争や結果を意識させられるテストなどでは強く働くモチベーションです。
暗記とか反復練習といった浅い処理レベルの勉強対策とかかわりが深いと言われています。
テスト前に集中して暗記と反復練習を頑張っただから成績アップ!的な、モチベーションとも言えます。
このタイプのモチベーションが強い生徒さんは「メタ認知を活用した勉強対策」も一時的には使います。
ですが「テスト終わった~」と安心して、次のテストまであまり勉強しない状態が見られるので、継続的な努力につながりにくく、1年後の成績アップも期待しにくいモチベーションのタイプと言えます。
「メタ認知を活用した勉強対策」をしなければ、さらに結果がでないケースが多くなります。
成績アップのカギは「メタ認知」
「どんなモチベーションでも、高ければ成績アップにつながる」
かというと、実はそうではなくて、モチベーションと成績アップには直結するような関係はなかった、という研究結果もあります。
「内発的調整」のような高いモチベーションであったとしても、「メタ認知を活用した勉強対策」を取り入れていかないと1年後の成績アップは期待できないのです。
自律的な学習動機づけとメタ認知的方略が学業成績を予測するプロセス
-内発的な学習動機づけは学業成績を予測することができるのか?-
西村多久磨、河村茂雄、櫻井茂男(教育心理学研究,2011,59,77-87)
一方、
という研究結果はいくつもあります。
どうやら「メタ認知」が成績アップのカギのようです。
「メタ認知」って何?
では、これまで何度も出てきた「メタ認知」とはなんでしょうか?
子どもの学習力や教科力を向上させるために注意しておきたい子どもの知的な活動は何かというと、「メタ認知」、イメージ的には「もう一人の自分」であるといえる。
イメージとしては…
こんな感じです。
※転載をお控え頂き、ありがとうございます。
「メタ認知」はイメージして頂けたかと思いますが、では
「メタ認知を活用した勉強対策」(メタ認知的方略)
とは、どんな対策でしょうか?
「メタ認知を活用した勉強対策」(メタ認知的方略)ってどんなもの?
ここで出てきた「方略」とは「Strategy」を日本語に訳した言葉。「戦略」とか「作戦」の意味です。
教育、勉強の世界ですから「学習方略」になったんだと思います。
平たくいうと「勉強する時の戦略」のことで、狭い意味では勉強方法と言い換えてもいいかもしれません。
勉強方法(学習方略)はいくつか種類があって「メタ認知を活用した勉強対策」(=メタ認知的方略)は、そのカテゴリーの一つ。
「メタ認知を使った勉強対策」には、具体的な種類かあります。
何から手をつけたらいいかわからない…そんな中学生の皆さんは、この対策をチェックしてみてください。
【メタ認知を活用した勉強対策】
1)モニタリング(自分自身の理解を確認するために、自問自答する)
①セルフ・モニタリング:自分の行動や考えや感情を自分で観察記録する。
②ソース・モニタリング:自己の体験や入手した情報をいつ,どこで,だれから,どのような状況で得たのか,体験や情報が事実なのか空想なのかなどについて正確に思い出せる。
2)プランニング(課題を分析して目標を設定する)
何から勉強したらよいか順番を考える、計画を立てて勉強する、目標を決めて勉強する。
3)ノート・テイキング
ノー ト・配布資料・テキストにメモしたり下線を引いたりする。
4)時間管理
勉強時間を管理する。
5)援助要請
自分で考えても分からないことは親や先生に聞く。
※自律学習と動機づけ 教育心理学の観点から 2011/2/19 上淵 寿 (東京学芸大学)参考に作成
どうでしょう?
「やっているよ」という方法もあれば「やってないな」という方法もあると思います。
まずは、やっていない方法があることに気づくことが重要。
という勉強方法があったら取り入れてみてはいかがでしょう。
研究結果活用時の注意点
この記事で参考にさせて頂いた研究結果の調査は、2007年11月上旬と2008年11月上旬の2回、A県公立中学校1校の1、2年生を対象に1年後の2、3年生194名に対して実施。
有効回答は、二年生男子25名、女子52名、3年生男子36名、女子60名。
合計173名の国数社理英の合計得点で分析されています。
この研究結果を活用する際には、注意点があります。
② 「統合的調整」に関する調査結果がないこと。
③ 実際の個人は、一つのモチベーションだけでなく、複数のモチベーションによって活動していること。
の3点です。
まだまだ解明できていないことの多い分野ですので、鵜呑みにするわけにはいきませんが、調査の基準は、同県の中学校5校の1~3年生1,226名のデータから導き出されていますので、この研究結果は一定の評価はできるものと言えるのではないでしょうか。
まとめ
といった同一化的調整のモチベーションが、メタ認知を使った勉強対策をしよう!と思うきっかけにもなっているんです。
ですからまずは、このモチベーションをしっかり持てるような工夫をして、
次に、メタ認知を使った勉強対策を続ければ1年後の成績アップは大いに期待できます。
同一化調整のモチベーションを高め、メタ認知を使った勉強対策ができるためには、自分から積極的に取り組む姿勢が欠かせません。
この「自分から積極的に自分の勉強にかかわっていく」自律的な学習スタイルは「自己調整学習」と呼ばれています。
そうは言っても、勉強をしていると目の前のことでいっぱいいっぱいで、
なんて、なかなかできないと思います。
そんな時は、別の記事で取り上げている実際に自分の今日の計画を書き出してみる「アイビーリー・メソッド」を試してみるのも一つの方法です。
[sitecard subtitle=関連記事 url=https://school-nobinobi.com/what-is-the-efficiency-improvement-method-that-will-last-for-a-century/ target=self]目標や計画を書き出してみるだけで、今の自分をもう一人の自分で確認することができますので。
心理学の研究結果から見た「成績の悩みを解消する効果的な方法」=成績アップの近道は、
② メタ認知を活用した勉強対策をして、
③ 自律的に学習に取り組めるようにする
ことだと言われていますので、頑張っているのになかなか結果につながらない生徒さんや保護者の皆様は意識して取り組まれてみてはいかがでしょうか。
最後にこの記事に出てきた用語と参考にさせて頂いた論文、資料のリンクを掲載させて頂きます。
という皆さんは、下記の大本の資料をご参照ください。
用語集
自己調整学習
学習者が目標を設定し、その目標を達成するために自身の認知や動機づけ、行動をモニターし、調整し、コントロールする積極的なプロセスのこと。自己調整学習を進める際に特に重要となるのが「学習方略」。
学習方略
学習の効果を高めることを目指して意図的に行う心的操作あるいは行動であり、学習を促進する効果的な学習法、勉強法を用いるための計画、工夫、方法のこと。
学習方略の代表的カテゴリー
(1)認知的学習方略
学習内容に直接働きかけて理解や記憶を促進するために用いられる学習方略。
- 学習内容を繰り返して覚えるような「浅い処理」の方略
リハーサル方略
情報を記憶するとき、頭の中で何度も繰り返し反復すること。一生懸命リハーサルすると記憶できる。 - 今まで習ったことと新しく習う内容を結びつける「深い処理」の方略
精緻化方略
学習者がすでにもっている知識を元に意図的に新しい学習内容に何かを付加したり相互に関連付けたり変換したりすること。 - 学習内容をまとめて・関連づけて覚えたりする「深い処理」の方略
体制化方略(深い処理)
学習者が意図的に学習内容を関連づけること。
深い処理に関する方略が、勉強の成績アップに有用であるとされている。
(2)動機づけ調整方略 ※ ←メタ認知的方略?(自分の認知的活動を調整する「調整・制御」の1つでは?)
モチベーションが下がったときに、自分のモチベーションを調整して学習に向かわせる学習方略。
この方略を用いることで学習へのやる気が高まり、繰り返して覚えたり、関連づけて覚えたりといった認知的方略の使用が促され、持続的で積極的な学習につながる。
- 学習内容に対する興味を高めることでモチベーションを引き出す方略
- 周囲の環境を調整することでモチベーションを引き出す方略
(3)メタ認知的方略
重要な学習方略の1つ。学習内容に直接働きかけるのではなく、学習を効果的に行うために自己の状態を整える方略。学習をより効果的に行う上で重要である。
- プランニング(課題を分析して目標を設定する)
- モニタリング(自分自身の理解を確認するために、自問自答する)
- 調整・制御(自分の認知的活動を調整する)
などの活動が含まれる(瀬尾・植阪・市川,2008)。
(4)リソース管理方略
勉強を効果的に進めるため に,さまざまな道具、教師、友達といった他者を活用したり、不安をコントロールしたり勉強意欲を維持したりといった自分を取り巻く学習環境を整える工夫をすること。
参考資料
論文 自律的な学習動機づけとメタ認知的方略が学業成績を予測するプロセス
-内発的な学習動機づけは学業成績を予測することができるのか?-
西村多久磨、河村茂雄、櫻井茂男(教育心理学研究,2011,59,77-87)
資料 認知的方略,動機づけ調整方略とテスト学習時間の関連
梅本貴豊・矢田尚也(日本教育工学会論文誌38(2),167-175,2014)
論文 学習者は教育心理学で指摘される学習方略を実際の学習場面で用いているか
学習方略に関する理論的枠組みと大学生に対する調査(自由記述)の結果を用いて
松沼光泰(静岡大学教職センター)2017
資料 動機付けの心理学 ーその成果と課題ー 研究委員会企画シンポジウム1 2011.Vol50,31-34 教育心理学年報50集
サイト 平成22年度奈良教育大学学長裁量経費補助研究成果報告「メタ認知の概要」
論文 学習方略 活用学習における学習方略プログラムの開発研究
(早稲田大学大学院教職研究科紀要 2016-03-01 早稲田大学リポジトリ)
サイト 自律学習と動機づけ 教育心理学の観点から 2011/2/19 上淵 寿 (東京学芸大学)